白十字病院

脳血管内治療科 

切らずに治す脳神経外科手術

診療内容・特色

はじめに

脳卒中は、がん、心臓病、肺炎と並んで日本人の死亡原因の第4位を占め、寝たきりの原因の第1位でもあります。脳卒中には、くも膜下出血や脳内出血のように、頭の中の血管が破れて出血する病気と、脳梗塞のように、脳内の血管が詰まる病気があります。脳卒中の治療は、高血圧や糖尿病、高脂血症に対する薬物治療や、脳梗塞を予防するための抗血栓薬といった血液の中で血栓ができにくくする薬を内服したりする内科的治療がありますが、それでもコントロールが難しい場合は脳外科手術が必要になる場合があります。以前は実際に頭の骨を開けて、患部を治療する「開頭手術」しかありませんでした。しかし、最近では「頭を切らずに行える脳血管内治療」(脳血管のカテーテル治療)が行われるようになっています。


 

脳血管内治療とは

脳血管内治療は、カテーテルやコイル、ステントなどの様々な治療器具を使い、脳動脈瘤、頚動脈狭窄、急性期脳梗塞、脳血管奇形といった脳の病気を、血管の中から治療する方法です。開頭手術とは違って、頭や首を切開することがないので、患者さんへの侵襲(負担)が少ない治療です。特に最近では、治療器具の進歩、手技の向上や、様々なエビデンスによりその安全性・有効性が認められています。当院では、2021年4月より脳血管撮影装置を手術室に導入したHybrid operation roomを新設し、最先端の脳血管内治療を提供しています。またそれと同時に脳血管内治療チームを設立し、安全性の確保、後進の育成を行っています。


 

脳血管内治療の実際

大腿部(足のつけね部分)や肘、手首の動脈から、専用の約2-3mmのカテーテル(管)を挿入、誘導し、さらにそこから直径0.5mmほどの「マイクロカテーテル」と呼ばれる非常に細い管を到達させ、これを操作して治療します。脳血管内治療は傷が数mmだけのために、患者さんにとっては肉体的な負担の少ない治療であり、通常の予定手術では治療翌日から食事や歩行が可能で、治療3-4日で退院が可能です(緊急手術を除く)。


 

脳動脈瘤に対するコイル塞栓術

脳の血管にできる風船のようなふくらみを脳動脈瘤といいます。瘤のできる理由は明らかでありませんが、高血圧や血流分布の異常などの血管壁へのストレスや喫煙、遺伝などによる動脈壁の脆弱性に関連すると考えられています。以前は破裂してみつかることがほとんどでしたが、最近は頭痛の検査や脳ドックでMRIやCT検査をうけ発見されることが増えています。
未破裂脳動脈瘤(破れていない脳動脈瘤)の多くは症状をきたしませんが、破裂してくも膜下出血をきたす場合があります。くも膜下出血は発生すると半数以上の方が死亡するか社会復帰不可能な後遺症を残してしまう非常に怖い病気です。未破裂脳動脈瘤は平均年1%で破裂の危険性があるといわれています。大きさの大きい瘤、前交通動脈瘤や後交通動脈瘤、脳底動脈瘤、形のいびつなもの、多数の動脈瘤、多量の飲酒、喫煙、高血圧を有する患者で破裂率が高いと考えられています。治療には開頭クリッピング術とコイル塞栓術があります。コイル塞栓術とは、脳動脈瘤にプラチナコイルを挿入し、動脈瘤を内側からつめてしまう治療です。動脈瘤の根本が広い動脈瘤(ワイドネック)や不整形、大型動脈瘤はコイル塞栓術が不向きとされていましたが、最近では様々なコイルやステントを使用することでほとんどの動脈瘤の治療が可能となっています。

 
 
 

脳動脈瘤に対するフローダイバーター治療

Pipeline flowdiverter system

動脈瘤の大きさや形状、場所により、通常のコイル塞栓術では再発しやすいタイプが指摘されており、それを解決する方法の一つがフローダイバーター治療になります。フローダイバーターとは、非常に目の細かなステントのことで、動脈瘤のある血管にこれを留置することで動脈瘤内の血液の流れが変わり、血液がよどみ、動脈瘤内がゆっくり血栓化(閉塞)します。閉塞までの時間はおおよそ6ヶ月から2年間と言われています。大型の動脈瘤では血栓化したあとで動脈瘤そのものの縮小も期待できるため、動脈瘤による圧迫症状がある方には特に有効治療になります。

 

頚動脈狭窄症に対するステント留置術

頚動脈狭窄症とは、頚部の頚動脈分岐部に動脈硬化性変化によるプラークがこびりつき、血管が狭くなる病態です。これが原因で脳血流量の低下をきたしたり、頭蓋内塞栓の原因となったりして脳梗塞を起こします。通常、内科治療(抗血栓療法)をおこないますが、狭窄の程度が強くなると、その後の脳梗塞を予防するために外科的治療が必要となります。治療法には直達手術(頚動脈内膜剥離術:CEA)と血管内手術(頚動脈ステント留置術:CAS)があります。頚動脈ステント留置術とは、局所麻酔でおこなうことができる血管内手術で、カテーテルを狭窄手前まで進め、狭窄部分をステントで拡張させる治療になります。直達手術と比較し、低侵襲でおこなうことが可能で、最近は様々な機器の進歩により、CEAと同等の安全性が証明されています。

 

急性動脈閉塞に対する再開通療法

脳梗塞はねたきりの原因第1位の疾患であり、適切な治療が求められています。脳梗塞は発症からの時間が非常に重要であり、時間がたつごとに重症化します。発症から時間がまもない脳梗塞では、点滴での血栓溶解薬(t-PA)や、カテーテル治療が可能となります。特にカテーテル治療では、ステント型カテーテルや吸引型カテーテルを用いて太い血管に詰まった血栓を除去することで、広範囲な脳梗塞の進行を抑えることができます。当院ではより良い治療がおこなえるように、定期的な院内教育や密な救急隊との連携をおこなっています。


 

経橈骨動脈アプローチによるさらなる低侵襲治療

脳血管内治療は通常大腿部から行われることがほとんどですが、穿刺部合併症や術後の安静による苦痛が問題となります。当院では安全に行えると判断した場合は橈骨動脈(手首の動脈)からのアプローチを行っています。経橈骨動脈治療は循環器領域では普及しているものの、脳血管領域では大動脈の解剖学的形態や、血管内治療機器の太さから、大腿部からの治療に比べ困難となります。当院ではより患者さんに負担の少ない治療を提供できるよう、様々な工夫や戦略を立て、この方法を積極的に取り入れています。


 

Hybrid Operation room (Hybrid OR)での直達術と併用した脳血管内治療

ハイブリッド手術室一部屋で治療が完結するため、患者さんの移動の負担なく、安全かつ効率的な低侵襲治療が可能となります。

●破裂脳動脈瘤、脳室内出血、急性水頭症に対するコイル塞栓術および内視鏡下血腫除去
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●総頸動脈起始部狭窄に対する頸部直接開創による逆行性ステント留置術
 
●当院のハイブリッド手術室
 Philips Azurion7 B20/15

 

参考資料
脳血管内治療医の立場から見た中規模総合病院におけるハイブリッド手術室の意義
白十字病院脳神経外科/脳血管内治療科 福田健治
月刊新医療 2022年4月号
 



 
 

2021年度~2022年度・2023年手術数



 

 

2021年度

2022年度

2023年

未破裂脳動脈瘤コイル塞栓術

20

20

28

破裂脳動脈瘤コイル塞栓術

8

6

11

急性期脳梗塞血栓回収術

27

20

23

頸動脈ステント留置術

14

12

13

頭蓋内 PTA/S

7

3

8

頭蓋外 PTA/S

4

2

1

脳腫瘍栄養動脈塞栓術

4

2

3

慢性硬膜下血腫栄養動脈塞栓術               

-

4

17

AVM塞栓術

1

1

1

AVF塞栓術

1

2

2

脳血管攣縮エリル動注

-

-

3

その他

4

4

3

90

76

113



 

スタッフ紹介

[脳神経外科部長]福田 健治

FUKUDA KENJI

専門医・認定医
日本脳神経外科学会専門医
日本脳神経血管内治療指導医
日本脳卒中学会専門医
日本脳循環代謝学会評議員
医学博士
福岡大学臨床教授

脳神経外科 兼任
[脳・血管内科医長]徳永 敬介

TOKUNAGA

専門医・認定医
日本内科学会認定内科医
日本内科学会総合内科専門医・指導医
日本神経学会神経内科専門医・指導医
日本脳卒中学会脳卒中専門医
日本脳神経血管内治療学会脳血管内治療専門医
日本脳神経超音波学会脳神経超音波検査士

脳・血管内科 兼任
[脳・血管内科医長]坂井 翔建

SAKAI

専門医・認定医
日本内科学会認定内科医
日本内科学会総合内科専門医
日本神経学会神経内科専門医
日本脳卒中学会脳卒中専門医
日本脳神経血管内治療学会脳血管内治療専門医
日本脳神経超音波学会脳神経超音波検査士

脳・血管内科 兼任
[脳神経外科医長]藤原 史明

FUJIHARA FUMIAKI

専門医・認定医
日本脳神経外科学会専門医
日本脳卒中学会専門医
脳血栓回収療法実施医
日本脊髄外科学会認定医
医学博士

脳神経外科 兼任
[脳神経外科医長]神﨑 由起

KOUZAKI YUKI

専門医・認定医
日本脳神経外科学会専門医
日本脳卒中学会専門医
脳血栓回収療法実施医
日本神経内視鏡学会技術認定医

脳神経外科 兼任