白十字病院

もの忘れ外来

老いに寄り添う医療を目指します。

診療内容・特色

当院では2007年に「もの忘れ外来」を開設し、認知症の早期発見・早期介入を推進しています。認知機能検査や頭部MRIなどを実施し、必要に応じて脳血流SPECTやDATスキャンを追加することで、より精密な診断が可能です。検査結果をもとに、薬物療法や介護保険の活用による進行予防の提案をおこないます。
 

もの忘れ外来の役割

  • 認知症の早期発見と診断
  • 治療方針の決定
  • 認知症症状への対応について相談・指導
  • 介護保険についての説明とデイサービス利用の提案
  • かかりつけ医との連携による継続診療
     

白十字病院もの忘れ外来を受診された患者さんの特徴

軽度認知機能障害(MCI)の段階で来院される方が4分の1を占めています。より早期に方針を検討できることは大変望ましいことです。病型としてはアルツハイマー型認知症が最も多く、血管性あるいは混合型認知症、レビー小体型認知症と続きます。その他には前頭側頭型認知症、正常圧水頭症、うつ病、代謝性脳症、薬剤性認知症などが含まれます。

 

 

検査・診察の流れ

1.問診

もの忘れ外来の担当看護師が、症状や経過、お困りの点について詳しく問診します。必ず患者さんのことをよくご存じの御家族と一緒に来院してください。また、介護保険証やお薬手帳・血圧手帳などお持ちの方はご持参ください。
 

2.認知機能検査

簡便に認知機能を測定できるMMSE(Mini Mental State Examination)でスクリーニングをおこないます。MMSEの点数分布を観ると、軽度認知機能低下(MCI)から初期認知症の段階で受診される方が多くおられます。症状によっては、錯視を評価するパレイドリア検査や、他の高次脳検査を追加する場合があります。

 

3.画像検査

頭部MRIを用いて、早期アルツハイマー型認知症診断支援システムVSRAD(ヴィエスラド)で海馬傍回などの萎縮を解析します。同時に脳血管の病態も検査し、認知機能維持に重要な部位の脳梗塞(Strategic Infarction)や脳微小出血(Micro-Bleeds)などの精査を実施します。ペースメーカー使用中の方や、以前から体内に金属が入っている方、約20分の安静が保てない方は、代わりにマルチスライスCTを撮影する場合があります。
また、病状によっては、帯状回後部など認知機能に関連する部位の機能を評価する脳血流SPECTや、レビー小体型認知症の精査に有用なDaT Scan(ダットスキャン: Dopamine Transporter Scan)を、後日追加することができます。

 

 

4.診察

各種検査に基づき、認知症サポート医による診断をおこない、治療方針を決定いたします。一般的には検査から確定診断・治療方針決定まで一日で完了しますが、脳血流SPECTなど精密検査の追加が必要な場合には後日再度来院していただくこともございます。認知症治療薬が開始となった時には数カ月外来で経過を観させていただき、その後はかかりつけ医と連携して継続的に診療する体制を整えています。

 

 

5.看護相談

認知症症状への対応について、看護師が御家族のご相談をお受けします。当院では、福岡市とともにユマニチュード®を用いた看護の実践に取り組んでいます。イヴ・ジネスト氏に直接指導を受けた看護師が、認知症の方の「人間らしさ」を尊重し続けるケアについて指導していきます。

 

実績

認知症に関する学会発表

  • 「脳ドックを兼ねたもの忘れ外来における脳微小出血(CMBs)の評価」
    入江克実(第26回日本脳ドック学会総会, 2017)
  • 「もの忘れ外来における脳微小出血(CMBs)の部位別にみた臨床的意義」
    入江克実(第43回日本脳卒中学会学術集会, 2018)
  • 「もの忘れ外来における認知症病型別にみた脳微小出血と加齢との関連」
    入江克実(第62回日本老年医学会学術集会, 2020)
認知症において進行を予防できる可能性がある病態の一つに脳微小出血(CMBs)が挙げられる。当院もの忘れ外来におけるCMBsに注目して、臨床背景や認知症病型との関連を横断的に観察した。CMBsの病態は部位によって臨床的位置付けが異なり、深部CMBsは高血圧による血管侵襲と、脳葉CMBsはアルツハイマーのアミロイド沈着との関連が強かった。CMBsは高血圧と加齢・アミロイド沈着による血管脆弱性のスペクトラムで把握されるべきと考えられる。受診時に血圧高値である患者さんも多く、病態に応じた適切な降圧療法が望まれる。
 

 

  • 「認知症の重症度と再入院リスクに関する検討」
    入江克実(第56回医療・病院管理学会学術総会, 2018)
  • 「医療の質の評価における再入院率の対象疾患・観察期間の検討」
    入江克実(第60回全日本病院学会, 2018)
  • 「急性期病院における加齢と再入院リスクに関する検討」
    入江克実(第61回日本老年医学会学術集会, 2019)
当院には精神科病棟がなく認知症の行動精神症状(BPSD)を治療する入院はおこなっていないが、福岡市の認知症疾患医療連携における協力病院として、認知症を有していても他の治療が必要な疾患での入院は積極的に受入れている。一方で、入院治療で回復した認知症患者さんに対して、短い入院期間で服薬管理や食事制限など退院後の注意点を充分に理解してもらうことは難しいため、予定外の再入院につながる可能性がある。認知症およびその重症度に注目して、再入院リスクとの関連を検討すると、認知症を有する患者さんで再入院率は高かったが、軽症の認知症自立度I-IIと重症の認知症自立度III以上では差がなかった。重症度よりも認知症を有すること自体が再入院の増加に関連しており、御家族の協力や介護保険の活用を通じて軽症の認知症であっても予防可能な再入院を減らす取り組みが、入院と在宅との医療的ケアニーズギャップの縮小につながると考えられる。

 

スタッフ紹介

[脳血管内科]入江 克実

IRIE KATSUMI

略歴
福岡県認知症サポート医
福岡市医師会認知症地域医療連携部会部員
専門医・認定医
日本内科学会総合内科専門医・指導医
日本老年医学会老年病専門医
日本脳卒中学会専門医・指導医・評議員
日本脳循環代謝学会評議員