白十字病院

病理診断科

確かな診断で最適な治療に
進んでいただくために

診療内容・特色

診療内容~確定診断をすること~

病理診断科には、病理診断をおこなう医師=病理医が務めています。病理診断科の仕事をご存知でしょうか?患者さんに直接お会いすることがほとんどないので、日本ではあまり知られていませんでしたが、漫画やドラマで注目された「フラジャイル」のおかげで、認知度が少し上がってきているようです。
まず、患者さんの病変部(例えば胃のポリープや乳房のしこり)から担当医師が採取した組織あるいは細胞検体から臨床検査技師がガラス標本を作製します。この標本を「顕微鏡で観察して確定診断をすること」が病理診断科の主な仕事です。この確定診断をもとに、担当医が患者さんと相談しながら治療方針を決定します。当院の病理診断は、全て、日本病理学会および日本専門医機構が認定する病理専門医がおこなっています。
 

病理組織診断

生検・針生検診断

乳腺針生検(Core Needle Biopsy)
標本の顕微鏡写真(HE染色)
「がん」が疑われるような病変部から採取された小さな組織片(1~3 mm程度のことが多い)の診断です。少ない情報から確定診断をおこなうため、診断には豊富な知識、経験だけでなく洞察力、想像力と判断力が必要です。

 

手術で摘出された臓器の診断

主に、患者さんの「がん」を取り除くために手術で摘出された臓器(胃、肝臓、乳腺、腎臓など)またはその一部の病理診断をおこないます。病理医が肉眼で観察して診断に必要な場所から臓器を切り取り、作製された標本を顕微鏡で観察して、がんの種類、進行の程度、転移の有無など、手術後の治療方針の決定に必要な情報を担当医に提供します。
 
  • 横行結腸癌の肉眼写真

  • 胃癌の肉眼写真

 

迅速診断

クリオスタット(凍結切片作製装置)
手術方針の決定のために、手術中に担当医が組織を採取し、それを凍結させて作製された標本の診断をおこなうことです。「がん」が取りきれたどうか、転移があるかどうかなどの情報を提供することにより、手術方針が手術中に決定されます。

 

細胞診断

生検診断は、病変の一部から診断することですが、細胞診断は病変の細胞から診断することで、更に情報が乏しいため、確定診断が難しくなります。当院の細胞診断は、全て、日本臨床細胞学会が認定する細胞診専門医および細胞検査士がおこなっています。
 

剥離・擦過細胞診

「がん」から剥がれて尿や痰の中に混じった「がん細胞」を顕微鏡で観察して診断をおこないます。

 

穿刺吸引細胞診

尿細胞診の顕微鏡写真
乳腺や甲状腺では、「がん」が疑われる病変部に細い針を刺して吸引し、採取された細胞の診断をおこないます。

 

なぜ病理診断は難しいのでしょうか?

その理由は以下のような様々な状況があるからです。
 

臨床側の問題

  • 病理診断に必要な患者さんの医療情報(基礎疾患、がんの手術歴など)の記載不足、未入手。
  • 病変部からうまく採取されていない、採取量の不足
  • 担当医の技術的な問題:採取時の組織の挫滅(artifact)、thermal artifactなどによる不適正または観察困難な検体
 

病理側の問題

  • その疾患、臓器の病理診断経験、診断力の不足(百聞は一見に如かず)
  • 不適切な部位の切り出し、切り出し数の不足、不適切な包埋(面出し)
 

疾患自体の問題

  • 疾患のステージによる組織像の推移(特異的な組織所見の出現前、消失後など。炎症性皮膚疾患、healed DCISなど)
  • 疾患特異的な病理所見が乏しいもの(肝炎、炎症性皮膚疾患など)
  • 極めて稀な疾患であるため、診断基準が十分に確立されていないもの
  • 病理診断に遺伝子検査が必須であるもの(特に軟部腫瘍)
  • そもそも病理診断が難しい疾患(異型が弱く圧排性浸潤を示すタイプのがんなど)
 

症例特異的な問題

  • 画像を含めた臨床所見もしくは病理所見が非典型的な症例
  • 典型的な組織像が一部にしか見られない場合
  • 2種類以上の疾患がオーバーラップして評価が難しい症例(乳腺の乳管内乳頭腫とDCISの合併など)
  • 治療による2次的変化を伴っている場合
 

病理解剖・CPC

病気で亡くなられた患者さんのご遺体を解剖させていただくのが病理解剖(剖検)です。剖検では、主治医の立会いのもと、死因は何か、生前診断は正しかったか、どの程度病気が進行していたか、治療の効果はどの程度だったか、などを確認します。CPC (Clinico-Pathological Conference)では、病理医、担当医だけでなく多くの医師が集まり、亡くなられた患者さんの病気について、様々な専門の立場から討論し、明日の診療に役立てるよう努めます。

特色~「がん」の早期発見・早期診断に挑む~

当院の常勤病理医は一名で、大学医学部卒業後病理一筋30年、当院勤務歴14年目(2021年4月時点)の病理医が全ての病理業務に従事しています。臨床各科の先生方に安心して治療していただけるような、正確できめの細かい診断を目指しています。病理診断の質および精度向上に近道はなく、自己研鑽(個々の症例に真摯に向き合い、詳細かつ正確な形態所見の解析と文献等からの情報収集の積み重ね)と相互研鑽(病理医間、病理医-臨床医-医療スタッフ間の相互情報提供、相互解析による意見交換)を礎としています。
幸いなことに、ここ福岡では、参加することができる多くの活発な学会、研究会、および勉強会が近隣から全国まで様々なレベルで発展し、研鑽のための環境は十分に整っています。特に、年6回開催されている伝統ある九州・沖縄スライドコンファレンスは、全身臓器の病理診断を学ぶ絶好の機会となっています。また、福岡大学、長崎大学との交流およびWebを利用したコンサルテーションにより、一人勤務病理医としての弊害が和らぎ、両大学の生き生きとした若手の病理医から元気をいただいています。病理診断・細胞診断全般を担当していますが、特に、乳腺、泌尿器、消化器の診断に尽力しています(実績をご参照ください)。
 

異所性胃腺を背景に発生した胃癌(マッピング)

 
 
前立腺針生検の病理組織写真
全ての病気は、予防することが第一ですが、予防できない、あるいは予防が困難な病気の場合には一般に早期発 見・早期診断がその後の患者さんの健康および寿命に大きく影響し ます。では、“がん”はどのようにして発見されるのでしょうか。 例えば、前立腺癌には PSA (prostate specific antigen) という 優れたマーカーがあり、採血により血清PSA値を測定する“前立がん癌検診”によって我が国の前立腺癌の死亡数は2014年に初めて減少に転じました。(https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/32_prostate_cancer_screening_2018.pdf
検診でPSA値が高いと判定されれば、泌尿器科専門医により前立腺針生検がおこなわれます。病理専門医がこの生検標本を顕微鏡で観察して、前立腺がんがあるかどうか、そして、Gleason score等のがんの性状と進行の程度を含めた「がんの情報」を泌尿器科専門医に報告する訳です。では、①乳がん、②膀胱・尿管・腎盂 がん、③大腸がんの場合はどうでしょう。これらのがんには、現在、特異的なマーカーがないため、採血で早期発見することはできません。

乳がんの早期発見・早期診断に挑む

乳がんは、乳がん検診または“しこり”を自覚されて検査される場合、まず、マンモグラフィ検査、エコー検査がおこなわれます。もし、これらの検査で“がん”が見落とされた場合、次回の検査まで“がん”は少しずつ、あるいは悪性度の高いタイプでは急速に進行していきますので、乳がんの早期発見にはとても大切な検査です。当院では、両検査は専門の資格を持つ検診マンモグラフィ撮影認定診療放射線技師および超音波検査士(体表)がおこない、読影(マンモグラフィの影を読むこと)”は検診マンモグラフィ読影認定医がおこなっています。読影認定医(乳腺外科医、放射線科医など)が乳がんまたは乳がんが疑わしいと判定すれば、針生検または穿刺吸引細胞診がおこなわれます。これらの標本を顕微鏡で観察して乳がんがあるかないか、どのタイプの乳がんかなどの「がんの情報」を読影認定医に報告するのが病理専門医の役割です。現在の医療現場ではこの診断の過程に2つの問題があります。1つは、針生検と穿刺吸引細胞診の診断が難しい場合があること(既述)、もう1つはマンモグラフィとエコーの評価が難しく、針生検または穿刺吸引細胞診をするかしないか迷う場合があることです。後者の理由の1つは、乳腺には様々な病気が様々な“影”を作り、それらが重複することもあるので、“読影”には、豊富な経験、知識と洞察力が必要となってくることです。“読影”が正しかったか否かの答えは“病理像”が明かしてくれるので、熱心な読影認定医の先生方は“病理像”を熱心に勉強されます。逆に、病理医は画像に対応する病理像を知っておく必要があり、“影” に相当する病変や細胞が標本中に見られるか否か、画像と病理像が矛盾しないか否か、を考慮することが病変の見落としや誤診を避けるコツの一つと言えます。当院では、乳腺画像病理カンファレンスを毎月開催し、乳腺外科医、放射線科医、病理医だけでなく放射線技師、超音波検査士、看護師が参加して、活発に討論しています。福岡市内の研究会としては、 113回(2019年)を数える福岡乳腺カンファレンス(年3回開催)に参画し、第89回から病理解説を担当させていただいています。福岡市内外の乳がんの早期発見・早期診断に少しでも役に立つことができればと思っています。
 
  • 乳腺穿刺吸引細胞診   (FNA)の細胞写真
  • 乳腺針生検(CNB)の病理組織写真

  • 乳腺腫瘍の画像対比

 

膀胱・尿管・腎盂がんの早期発見・早期診断に挑む

腎盂・尿管・膀胱は尿の通り道(尿路)で、ここにできるがんは、尿の中に血が混ざる血尿で発見されることが最も多く、頻尿、排尿時痛、側腹部痛などが発見の契機となる場合もあります。がんの細胞や組織が粘膜から剥がれてそこから出血することにより、血尿が出現します。この時に、赤血球だけでなく、がん細胞も尿中に出現するため、この標本を顕微鏡で観察してがん(大部分は尿路上皮癌)を診断するのが尿細胞診です。尿細胞診は、特に、上皮内癌のような平坦ながん、そして高悪性度のがんの診断に威力を発揮します。当院の全ての尿細胞診は、専門の資格を持つ細胞診専門医および細胞検査士によって行われています。当院の細胞診専門医は尿細胞診の研究歴が20年以上あり、国内における年数回の講義・講演・セミナー等を通して我が国の膀胱がんの早期発見・早期診断および尿細胞診の診断基準の標準化等に真摯に取り組んでいます。一方、悪性度にかかわらず、隆起性病変を形成するがんでは、超音波検査が早期発見に役立ちます。
 
  • 尿細胞診の細胞写真
  • 尿管腫瘍の肉眼写真

  • 尿管腫瘍の顕微鏡写真

 

大腸がんの早期発見・早期診断に挑む

大腸がんの病理組織写真
(12×9mmのポリープ)
大腸がんは、検便で取られた便の中に血が混じっているかどうかを検査する便潜血検査 で早期発見され、大腸内視鏡検査で内視鏡専門医がポリープなどの病変部の組織を採取し、作製された標本を病理専門医が顕微鏡で観察することによって診断されます。病理医は、採取された組織の中にがんが含まれているかどうか、がんが全て取り切れているかどうか等を確認し、内視鏡専門医にこれらの詳細な情報を提供します。

 

スタッフ紹介

[常勤医師・部長]大谷 博

OHTANI HIROSHI

卒業大学
平成2年長崎大学医学部卒 第一病理学教室入局(医学博士)
専門医・認定医
日本病理学会病理専門医・研修指導医・評議員
日本臨床細胞学会細胞診専門医・指導医・評議員
長崎大学大学院医学研究科・非常勤講師
泌尿器細胞診カンファレンス幹事
福岡乳腺カンファレンス世話人(病理コメンテーター担当)
略歴
長崎大学(助手)
浦添総合病院(部長)
琉球大学(助手)
長崎大学(講師、助教授)
北九州市立八幡病院(部長)
[非常勤医師]青木 光希子

AOKI MIKIKO

略歴
福岡大学医学部病理学講座・講師
[非常勤医師]菊島 百香

KIKUSHIMA MOMOKA

略歴
福岡大学医学部病理学講座・助手